沼津市内の米農家「イナムライス」(沼津市大平)が9月6日、今シーズンの稲刈りを始めた。
沼津市大平灰塚地区は肥沃(ひよく)な土壌に恵まれ、かつて桑畑だった一帯を100年ほど前に水路などを整備して水田に切り替え、米作りが盛んに行われてきた。
イナムライスは約5ヘクタールの田んぼで「コシヒカリ」「ゆうだい21」「きぬむすめ」の3品種を生産している。同日、収穫時期の早いコシヒカリの稲刈りを始めた。収穫量は全体で玄米約25トンを予定しているという。
8代目の稲村隆志さんは会社員をしながら農業を行う兼業農家。先代が亡くなったことをきっかけに農業の規模を縮小して引き継ぎ、会社勤めをしながら米作りを行っている。「きぬむすめ」は基準を満たした一等米がJAふじ伊豆のブランド米「するがの極」として販売されていて、「イナムライス」は2023年度時点で96人いる生産者のうち、3番目に多い出荷量を誇る。稲村さんは、2022年から開催されている飲食店と新米のコラボイベント「するがの極み新米フェス」の企画立案も担当した。
稲村さんは「収穫を始めたばかりなので全体の出来栄えについてはまだ何とも言えないが、稲穂の状態から見ると悪くないと思う。猛暑の影響で高温障害が生じている可能性はあるが、品種の選定・栽培管理などいくつかの対策を講じてきたので、結果につながることを期待している」と話す。
米の品薄については「国内流通が不足した原因については、複合的な要因が考えられるので、はっきりと答えることはできない。食品の流通は『生産あっての販売』であると同時に『販売あっての生産』。生産者の立場でできることは限られるが、安心して米を食べてもらえるように微力ながら動いていきたい」と稲村さん。
「直販だけでなくJAの『するがの極』としても出荷しているので、お客さまと顔の見える関係を築く喜びも、地域のブランド米の生産に携わる喜びも、両方味わせてもらっている。イナムライスの活動のテーマは『米のある暮らしを、もっと面白く』すること。日本にはこんなにおいしい食事、料理、素晴らしい食文化があるのに、日本人の主観的な幸福感はなかなか上がっていない。ということは、おいしいものだけでは私たちは幸せになれないのではないか、と考えている。おいしい米作りに励みながら、米を通じて、私たちの暮らしがより楽しく、面白くなるように、やれることをやりたい」と意気込む。
新米は9月9日から、自社ECサイトなどで販売する。