三嶋大社の門前にある陶器店「日光陶器店」(三島市大社町、 TEL 055-975-4914)で現在、「みしま風鈴」が生産のピークを迎えている。
1個1500円から販売する同商品は、日光陶器の関根久雄さんが1人で開発・製造を店の3階にある専用の窯で行っている。年間製作数は約3000個。関根さんは夏が近づく季節になると毎年、朝4時に目を覚まして風鈴作りを行っている。
関根さんは高校卒業後、自衛隊勤務、ギフトショップ店員で新規店開発などを経験し、23歳の時に家業を継ぎ2代目となった。「三島は伊豆・箱根や静岡方面の物流の拠点として昔から栄えていた。陶器店が多いのは旅館や飲食店が多くあり、バブルの時代にはさまざまな食器を販売していた」と話す。
関根さんがガラスに興味を持ったのは、90年初頭のバブル期という。きっかけは「柄の部分に彫刻がされている、1脚2万円以上するグラス1箱6脚を割ったしまったこと。以前学校で、ガラスは高温で溶けるという言葉を思い出し、火に掛けたがうまくいかない。そのときに自身の探究心が芽生え、ガラス製品作りへの情熱となった」と話す。
今ほどインターネットが普及していなかった当時、関根さんはガラスに関する書籍探しに加え、図書館で関連書籍を読みあさったという。「ガラス工房で技術を学ぶという手もあったが、地理的に通いきれなかったため、独学で全て学ぶことを決意した。当時はガラス工芸に関しての情報が少なく、古い歴史書などから情報を探したこともあった」と振り返る。
その後、古式製法のガラス工芸の世界に没頭し、炭などを使った窯の製造を開始。「何か問題があると徹底的に調べ上げ、解決するまで没頭する。そのせいで、給料のほとんどをにささげることもあった」と振り返る。
「転機になったのは、パソコンの購入と長女の誕生」と関根さん。「パソコンの購入により、パソコン通信の世界に没頭した。ガラス工芸についてより多くの情報が手に入いり、可能性が広がった。長女の出産では、それまでの研究費が家庭から打ち切られ、マネタイズする方法を模索した」と笑う。
その後、関根さんは電気窯を店舗兼自宅の3階の一室に設置。風鈴を作りに着手した。「従来の風鈴は均一に作ることを是としているが、個性があって多様な音色を持つ、世界に一つしかないオリジナルを作ろうと思った」と話す。
関根さんは窯にガラス素材を入れるほか、コバルトなどの鉱石を入れることで、色や音色の異なる多様な風鈴を製作する。仕上がった風鈴には一つ一つ名前を付けている。現在の時期は、「雅楽の有名曲名で、演奏の始まりをイメージして命名した」(関根さん)という商品「越天楽(えんてんらく)」を製作する。
関根さんの風鈴は、音色と形が観光客や地元の人々の人気を集めている。「みしま風鈴」は取材した新聞記者が命名したものという。関根さんは「まだ地域のブランド商品化などと言われていなかった時代。製作した商品に地元の名前を付けてもらい、とてもうれしかった」と話す。
現在は三島大社前でリヤカーを押してみしま風鈴を販売するなど、その姿が三島の夏の風物詩として定着している。
関根さんは「何年研究していても、終わりがなく飽きない素材。風鈴を作っているときに、理屈や理論とは異なるとても良い音の風鈴がまれに出来上がる。風鈴作りには神が宿っていると思うこともある。まだやりたいこと、やらなくてはいけないことが満載」と笑顔を見せる。
営業時間は9時~20時。月曜定休。