伊東にある1905(明治38)年創業の老舗旅館「陽気館」(伊東市末広町、TEL 0557-37-3101)が現在、外国人利用者を中心に人気を集めている。
築80年近い純和風旅館の同館。名物は館内から「登山電車」で30メートル上部へ向かう露天風呂。伊東市内が見渡せる露天風呂を目当てに、多くの利用客が同館に足を運んでいる。
同館は今年4月、外国人旅行者向けの口コミサイト「トリップアドバイザー」で伊東地域1位に輝いた。海外からの利用客比率は全体の10パーセントと、近隣の旅館よりも高めで、リピート客も多いという。
同館を切り盛りする5代目で、現在専務の稲葉明久さんは伊東生まれ。大学卒業後、帝国ホテルに勤務し、パーティー・宴会の予約担当や広報など17年間ほど在籍した後、3年間の米国留学を経て、同旅館に戻り経営に携わっている。
同旅館に戻った当時について、稲葉さんは「手入れは行き届かなく、掃除のチェックもされていなかった。利用客からのクレームはそのままにされていて、改善されぬまま同じクレームが繰り返されていた。浴衣や布団も老朽化も目立ち、社員の教育も行き届かない。ソフトもハードもボロボロだった」と振り返る。
稲葉さんは老朽化で不安が目立つ部分を改修したほか、時には自ら修復や手入れも行ったという。ソフト面では、自ら接客の陣頭指揮を執りませ、業務やサービスの改善を行っていった。
一方、外国人旅行者対策として、周囲の旅館業よりも早く英語版ホームページを開設。チェックインした外国人旅行者に浴衣の使用方法や温泉の入浴方法、食事のルールなどを約15分で口頭説明できるようマニュアルを作成し、丁寧な説明を行ってきたという。
稲葉さんは「自身が海外で生活するように、日本に来る旅行者はその土地のルールや作法に不安を覚えているが、国内の旅館施設や従業員の多くは、外国人に対しての案内が行き届いていないため、さらに不安を募らせている」と話す。
外国人口コミサイトの評価に対しては、「日本庭園や館内、露天風呂などハード面だけでなく、どの旅行者もそうだが、不安・不案内を徹底的に無くす努力をすることで、日本に来る旅行を楽しんでもらう努力が実ったのでは」とも。
稲葉さんは現在、館内だけでなく、伊東市や伊豆の観光案内など市内旅行者の案内も積極的に行っている。「外国人観光客は、歴史や文化、人に対してとても敬意を払って旅行をしている。それに対応するコミュニケーションを行うのが大切。言葉が通じなくても、気持ちを表現することで、街全体の雰囲気をよくしていきたい」と話す。