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沼津の書店が24年間の営業に幕 店舗支えた書店員が歴史振り返る

かつてソファ席があったというコーナーで、地元出身作家の宇佐見りんさんの新作を持つ古澤さん

かつてソファ席があったというコーナーで、地元出身作家の宇佐見りんさんの新作を持つ古澤さん

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 マルサン書店仲見世店(沼津市大手町)が5月31日、24年間の営業に幕を下ろした。

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 1902(明治35)年、沼津市上土町で創業した同店。戦後は客のニーズに合わせて店舗を増やし、スタッフも増員。最盛期は市内を中心に7店舗を展開。従業員は130人を超えたという。

仲見世店は旗艦店として1998(平成10)年に旧十字屋沼津店跡に本店(通横町)と宝塚店(大手町)を統合して開店。3階から地下1階まで4フロアあり、販売面積は延べ450坪の大型店舗として地元客を中心に多くの人に親しまれた。今回、店舗の老朽化により閉店を決断した

 同店の初代店長で、現在専務の古澤洋さんは「仲見世店はインターネットや大型店が流行する直前にオープンした。雑貨店やレコード店を併設する店舗もあったが、『本屋らしい本屋』をコンセプトに経営を行った」と振り返る。

 古澤さんによると、店内の一角には読書が好きなファンのためにシャンデリアとソファを設置。ゆっくり読んで購入してもらうサービスを提供したという。古澤さんは「当時東京の大型書店ではやり始めたサービスで、静岡県内でも珍しかった。書店運営は、研修したアメリカで学んだ手法を取り入れた。書店員になって今年で45年。これまで出店作業を10店舗行った」と話す。

 同店の閉店をきっかけに45年間の書店員生活を終えるという古澤さんは「1番の思い出は、2001(平成13)年出版の『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』。町の本屋として異例の初版800冊を仕入れた。当時は取り次ぎの問屋に誤発注かと言われたほど。町の本屋が軒並み欠品する中、最後まで読者に本が提供できた」と胸を張る。

 閉店後、店内の書籍と従業員は残る2店舗に引き継ぐという。古澤さんは「本屋には人間の全ての問題が凝縮されている。戦争や国際情勢の話、芸能人が離婚した話もあればメジャーリーガーがホームランを打った話など、インターネットに比べ速報性は劣るが、編集者や著者の深い目線が知れる。グーテンベルグの印刷技術からスタートしておよそ700年。自分は最も激動の45年を過ごしてきた」と笑顔を見せる。

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